旅館業を営むうえでの大前提としてまず旅館業法を知り、法律を遵守した営業しなくてはいけません。加えて地域ごとに定められた条例にも則る必要があります。これは宿泊施設が地域に根差した経済活動であり、環境の異なる地域においては法律だけではカバーしきれない細かいルールが必要となるからです。
これら法令や条例に違反してしまうと懲役や罰金が課せられることもあり、営業停止を言い渡される可能性もあります。
そこで今回は、これから宿泊施設の開業を予定している方向けに、宿泊施設が守るべき旅館業法について基本的な概要を紹介し、営業を行うのに必要な許認可の取得方法についてわかりやすく解説していきます。
旅館業法とは?
旅館業法とは昭和23年に制定された宿泊サービス業に対する規制を定めた法律のことです。
その第一条によると「旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。」
厚生労働省「旅館業法」
と記載があります。
小難しく記載してありますが簡単にいうと、
「旅館業を正しく運営することで業界を健全に成長させ、結果として利用者となる国民生活を豊かにしましょう」
ということになり、宿泊業界全体における統一ルールと認識でおけば大丈夫です。次にどのような場合に旅館業に該当するのかその定義を見ていきましょう。
旅館業法における旅館業の定義は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定められています。
宿泊料ではなく「部屋利用代」や「休憩料金」とすれば旅館業にあてはまらないかと言えばそうではありません。たとえお客さんから徴収した代金が宿泊という名目でなくても、料金を受け取りその対価として宿泊を提供したのであれば旅館業と見なされます。
クリーニング代でも光熱費だったとしても宿泊に関する費用を受け取ればそれは旅館業ということです。
また旅館業は営業活動と規定されています。この営業とは不特定多数を対象にした反復性のある社会活動のことであるとこれも規定されています。それゆえ友人や知り合いを家に泊めて料金を徴収しても旅館業の範疇とはなり得ません。したがって旅館業とは社会活動として費用を受け取り宿泊サービスを提供する行為であると捉えられます。
旅館業の4つ形態
現在日本では旅館業として分類される宿泊施設は次の4つです。建物の設備や構造の違いによって区分が細かく規定されており、形態ごとに必要となる許認可も異なります。
ホテル営業
ビジネスホテルやシティホテルなどがホテル営業に当てはまります。細かい規定として客室が10室以上であること、また床面積は9㎡以上であることと決まっています。
旅館営業
温泉街や観光地にある和式旅館が旅館営業です。規定として客室が5室以上であること、そして床面積が7㎡以上であることが決められています。
簡易宿所営業
カプセルホテルやキャンプのロッジ、ゲストハウスが分類されます。客室数の制限はないものの大人数を収容できる構造や設備を備えている必要があり、規定の床面積は33㎡以上とされています。
下宿営業
下宿営業とは一か月以上を単位として宿泊提供を行うことです。従業員の住み込みを行う際などの分類になりますが、仮に上記3ついずれかの許可を得ている場合は必要ありません。
旅館業の申請方法
旅館業を開業するには各自治体から営業の許認可を受ける必要があります。必要な手順を記載しているので申請の際の参考にしてください。
保健所に事前相談
まず開業する地域の自治体の保健所に相談をします。その際には旅館業法に設備構造が則っているかを確認作業があるため施設の平面図を持参しましょう。また消防法や建築基準法、食品衛生の観点から別途消防署や担当窓口にも合わせて相談の必要があります。
標識の設置
許可申請を受ける前には標識を設置する必要があります。この標識は公の場に運営開始について周知させる目的があります。設置後はすぐに設置報告書を提出し作業完了です。標識ならびに設置報告書は厚生労働省のホームページにてテンプレートがあるのでダウンロードして使ってください。また標識の設置は申請前に14日以上掲示しなくてはいけないことに注意です。
申請書の提出
申請の際は以下の申請書類が必要となります。東京都新宿区が規定している申請書類一覧から引用しています。
- 旅館業構造設備の概要
- 客室の概要
- 施設を中心とした半径300メートル以内の見取図
- 建物配置図
- 電気設備図
- 換気設備図
- 給排水設備図
- 客室等にガス設備を設ける場合には、その配管図
- 旅館業法施行規則第4条の3の基準に適合する設備を設ける場合には、次に掲げる書類
- ア 設備の設置場所を示す見取図及び平面図
- イ 設備の機能及び性能を示す書類
- ウ 設備の運用を申請者以外の者に委託する場合には、当該委託に係る契約内容を示す書類
- 定款等の写し及び登記事項証明書(法人の場合)
- 施設の土地及び建物に係る登記事項証明書
- 施設の所有者等の利用許諾を証する書類
- 施設がある建物に2以上の区分所有者が存する場合には、管理組合の利用許諾等必要な権原を有することを示す書類
- 検査手数料
ほとんどの自治体で上記の申請書類が必要ですが、これは例として東京都新宿区で必要な申請書類を上げているため、書類準備前に厚生労働省と各自治体のホームページも合わせて確認してください。また申請には約1万円〜3万円程度の申請手数料が発生します。地域ごとに料金が異なるため必要であればこちらもホームページや電話窓口から問い合わせてみましょう。
保健所による立ち入り調査
申請が完了したら次に保健所からの現場検査を受けます。検査内容は設備が標準構造、法律や条例に定める規定に準しているか、また申請内容から逸脱したものになっていないかを確認されます。検査には立ち合いが必要になるのでスケジュールを調整したうえで検査日を設定してください。
許可証の交付
保健所の検査を受け土日祝日を覗き14日程度で保健所より証明書が発行され、この証明書を受けて初めて営業を開始することができます。施設の100m以内に学校がある場合、保健所からそれらの施設に対して意見照会が行われることがあります。その内容は宿泊施設へ不審者の出入りがないか、過剰なネオン装飾によって地域環境を損ねていないかといったものです。この意見照会によって営業を断念するケースはほとんどないものの、時として業務改善指導が行われます。
参考:旅館の申請(届出)手続き:新宿区. https://www.city.shinjuku.lg.jp/jigyo/file03_03_00008.html
各自治体の上乗せ条例に注意
上乗せ条例とは、法律の範囲以上の効力を有する地方自治体(地方公共団体)が定めた独自の条例です。通常の条例は法律の範囲を超えないことが原則とされていますが、地域の健全な社会活動を維持する目的として法律に上乗せした規制が認められています。
2017年東京都の大田区では全国初となる上乗せ条例が制定されました。その内容は住民の生活環境を守る目的として民泊における住居専用地域、工業地域や工業専用地域、文教地区など該当地域での平日・週末に関わらず全ての期間において営業禁止という極めて厳しい規制でした。
これは民泊の例ですが、地域によっては対象施設が異なり法律よりも厳しい上乗せ条例が敷かれていることもあるので、開業地域が上乗せ条例の対象となっていないか自治体への問い合わせの段階で必ず確認しておきましょう。
旅館業法まとめ
本稿では旅館業法の概要と許認可の取得方法について解説しました。宿泊業は利益を求める企業活動であるもの、地域コミュニティに根差した非常に社会性の高い経済活動です。
どれだけ多くの利用客から支持を集めようとも旅館業法に抵触している、あるいは地域生活を損ねるような経営体制は長続きしません。最悪の場合、罰金の上、保健所からの指導で営業停止命令が下されてしまいます。
また、ここまで概要と許可申請方法についてご説明してきました。
しかし、許認可を得て営業が始まってからも決まり事があります。特にチェックインの際の本人確認と宿泊者台帳の取得は運営者の義務となっています。
実際に宿泊施設運営が始まってからの、細かいルールについては別の記事にて紹介していますので下記リンクより確認してみてください。地域社会への貢献性を示すためにも旅館業法の知識を深め、健全な経営を目指して行きましょう。
技術の進化に対応し、外国人観光客の変化するニーズに合わせた持続的な改善を行うことが、このダイナミックなホスピタリティ業界での持続的な成功に不可欠です。
保管や宿泊者名簿の取得、顔写真の取得などの本人確認方法など様々な対応もデジタル化することによって、業務効率化と安全な運営の2つを両立させることが可能です。
また、事前チェックインによりパスポート情報を含む身分証明書の取得をゲストのスマートフォンで入力してもらうシステムなどもあり、スタッフに限らず、ゲスト様の満足度向上も期待させることができます。
宿泊施設のシステム選定においては、施設の規模や業態、必要な機能に応じて最適なシステムを選ぶことが重要です。より運用に基づいたご提案や導入のご相談がございましたら、下記のボタンよりお気軽にお問い合わせください。お待ちしております!